夏に「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」が世田谷文学館で開催されていた。これまで断片的に見ていた堀内誠一さんの仕事が一挙に見られたことで、何かまとまった像として迫ってくるものがあった。堀内誠一さんといえば、『anan』や『BRUTUS』から『血と薔薇』まで、数々の雑誌を生みだし、雑誌の黄金時代をつくった天才的なアートディレクターとして知られているが、一方で『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』など、数々の名作絵本を生みだした絵本作家でもある。
展覧会を見てはじめて知ったのだけれど、福音館書店の『たくさんのふしぎ』も堀内さんがロゴマークを制作した数ある雑誌の中にひとつらしい。ふしぎなことをわかりやすく伝えてくれる『たくさんのふしぎ』は、子どもにも大人にも魅力的に思える絵本をたくさん生みだしている。その創刊号として、1985年4月に発売されたのが、堀内誠一さんのイラストレーション、谷川俊太郎さんの文章による絵本『いっぽんの鉛筆のむこうに』だ。
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この絵本は、スリランカ、ボガラ鉱山ではたらくボディマハヤッタさんの写真からはじまる。鉛筆の芯の材料である黒鉛を採掘しているのだ。ページをめくると、ボディマハヤッタさんの家族が出てくる。長男のサマンタ君の言葉でおとうさんのことが語られる。サマンタ君の学校生活のこと、スリランカの生活のこと、そんな日常が淡々と紹介され、次に舞台はアメリカ西部シエラ・ネバダ山中へ。鉛筆の材料となる木を切っているきこりのダン・ランドレスさんが登場する。スリランカ同様、子どもの言葉で鉛筆に関わる人たちの日常が語られる。次に木はコンテナ船で海を渡って日本に到着。山形にある三菱鉛筆の工場で、切りそろえられ、六角になり、何度も塗装されて私たちの良く見知っているかたちになっていく。そして、とうとう鉛筆はまちの文房具屋さんに到着する。
いっぽんの鉛筆が出来る過程を絵本にしたものといってしまえば簡単だけれど、その過程に脈々とつながっている人間の営みにはっとさせられ、それらがとても尊いものだと実感させられる。本当にすごい絵本だと思う。ひとつのものをつくるために、どれだけの人が関わっていて、その人が日々どんな暮らしをしているのか、当たり前にわたしたちの近くにある鉛筆だって、こんなにもたくさんの物語を抱えている。人々は懸命に働き、大切な家族がいて、子どもたちは学校へ行き、ごはんを食べて、遊んで、それぞれの今を生きている。
今、わたしの視界にあるもの(パソコン、ボールペン、ノート、コーヒー、本)たちの奥にどれだけの人のつながりがあるだろうか。もしかすると、これだけで世界を何周もしてしまうかも。そう考えると、自分と世界が少しだけ近づいた気がする。視点を少しずらしてみる。それだけで、どれだけ世界が変わって見えるか。そんなことをこの絵本から教わったように思う。
「世界を目で知る人は幸せである」
堀内誠一が残した言葉だ。この言葉をそのまま『いっぽんの鉛筆のむこうに』で実現しているように思う。自身の生活でも、それを体現するように世界中あちこち出かけて旅を暮らしとした。そうした世界を遊動しつづける精神の中に、多彩なクリエイションの秘密が詰まっているのかもしれない。
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