9月に仕事で帯広にいってきた。はじめての北海道。
車を走らせてすぐに不思議に思ったのが、道沿いに垂れ下がるように、矢印のサインがついていること。雪がつもって車線がわからなくなるので、冬になるとこの矢印を目印に車を走らせるらしい。どこまで走っても同じ景色が広がる様子は時間が止まったようだった。

翌日、空港に行く前に「十勝千年の森」をたずねた。
日高山脈を望む十勝平野の400ヘクタールもの広大な森に、在来樹種を植林し、本来の十勝の森を復元しようというもので、名前の通り千年先の未来を見据えた規模、構想共にスケールの大きいプロジェクトである。オノ・ヨーコをはじめ7人のアーティストたちがこの森を訪れ、制作した作品を点在させている「千年の森 アートライン」や、イギリスのガーデナー、ダン・ピアソンらの手による北海道ガーデン、自社で収穫した低農薬の野菜や、有機飼育の山羊チーズなどを食材としたレストランなども併設されていて、ここだけで丸1日楽しめてしまう。
今回、自然観察のプロにガイドをお願いできたので、野鳥の観察をしたり、古くからそこに生息している花や野草の特徴を教えてもらったり、森の木陰でひとやすみしたりしながら、アートラインの作品を中心に見てまわった。中でも、サミ・リンターラの「天の川の橋」とオノ・ヨーコの「北海道のためのSKY TV」が、印象的だった。
「天の川の橋」は、落葉樹と常緑樹が混在する森の入口に建つ建物。中に入って座っていると、せせらぎの音や木の葉の影など、ここに来るまでにもあったはずのものに気付かされる。「耳を傾ける」ことを促してくれる場所なのだ。
Sami Rintala / Amanogawa Bridge from 0300TV on Vimeo.
建物の中でいろんな音を聴いていると、ミヒャエル・エンデの「モモ」を思い出した。モモの特技は、「あいてのはなしをきくこと」。エンデがモモに与えた唯一の魔法は、「ほんとうに聞くことのできる才能」だった。
「モモは、犬や猫にも、コオロギヤヒキガエルにも、いやそればかりか雨や、木々にざわめく風にまで、耳をかたむけました。するとどんなものでも、それぞれのことばでモモに話しかけてくるのです。」
ーミヒャエル・エンデ「モモ」ー
東京で電車に乗っていると、みんながイヤホンで耳をふさいでいたり、携帯を必死で見ていたりするのが気になる。わたしだって、全くそうしないかというとそうではないので、自分を見ているような気持ちにもなるのだけど、でもやっぱり何かがおかしいような気がしてしょうがない。
8月の終わりに自宅で仕事をしていると、外でひぐらしが一斉に鳴きはじめるのを聴いた。それは本当に美しい響きで、一生覚えているだろうと思えるくらいのものだったのだけど、もしもあの時、音楽を聞いていたり、パソコンを開いていたりしたら、こんなにも自分の中に響かなかったかもしれないと思う。
話を千年の森に戻そう。
オノ・ヨーコ作品の会場となっているのは、その土地を開拓した人のかつての自宅で、とても冬を越せると思えないくらい儚い木造家屋だった。家の隣には防風 林があり、巨大な杉の木は風を受けて大きく曲がっていたし、草花は斜めに生えていた。それもそのはず、ガイドさんによると、ここは日高山脈から吹き下ろす 風をめいっぱい受ける場所だという。そんな過酷な場所に建つ家の中に入って、ブラウン管テレビに映る美しい空を眺めていると、とても閑かな気持ちになっ た。



家を出ると、ガイドさんに白い短冊を手渡された。願いを書いて、庭のカエデの木に結ぶという。見てみると、願いが書かれたたくさんの短冊がちいさな木に結ばれていた。参加型の作品「北海道のための念願の木」だ。短冊は集められて、アイルランドの「イマジン・ピース・タワー」に設置されるらしい。
わたしも小さな願いを書いた短冊を結ぼうと近づいてみると、「YES!!」と書かれた短冊を見つけて、うれしくなった。誰かの願いによって、見ず知らずの誰かが勇気づけられたり、希望を持ったりする。そういうことを可能にするのは、もしかするとアートだけなのかもしれないとひそかに思った。

おまけに、「イマジン・ピース・タワー」の点灯式の様子を映したドキュメンタリーを。とても感動的です。
IMAGINE PEACE TOWER from Yoko Ono on Vimeo.
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